1話 塾の先生

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なんで残業引き受けちゃったんだろう。 今日は塾の面談があるってわかっていたのに。 遅刻したのも、心に余裕がなかったのも、残業を引き受けたからだ。一度、家に帰って気持ちを落ち着けてくれば、受付で汗拭きシートを使う事もなかった。 私のバカ。今日は残業を断るべきだったのに……。 「おっさんでも、倉田先生に釘付けだったよね」 「倉田先生、超イケメンだから。母親たちはみんな見惚れてるよね。あの汗拭きシートも熱い視線送ってたし」 汗拭きシートって私? 私、熱い視線、送ってた? 「汗拭きシートって、あだ名になってるし」 「あだ名レベルだよ。もう、笑うの堪えるの必死だったんだから。ていうかさ、倉田先生に握手されて、汗拭きシート、顔真っ赤だったよね」 ウソ。顔、真っ赤だったの? 恥ずかしい……。 「ときめいたんじゃないの。イケメンにいきなり握手されたんだから。あのおばさん、息子と話していた時よりも声だって高くなっちゃってさ」 耳が熱い。あーもう、いい年して倉田先生に舞い上がっていたかも。 「受付で汗拭きシート使ってたくせに笑える。倉田先生が相手にする訳ないのに色目使って恥ずかしい」 色目なんて使ってないんだけどな……。 「倉田先生、笑顔だったけど、内心は引いてたんじゃない。絶対、倉田先生も汗拭きシートで拭く所見てたよ」 え!!!! 倉田先生にも見られていたの!! もう嫌だ。恥ずかし過ぎる。地面に埋もれたい。
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