193人が本棚に入れています
本棚に追加
パチンっとコンパクトを閉じる音がして、女の子たちは出て行った。メイクを直しに来ただけだったんだ。
ふらふらと個室から出て、鏡を見るとファンデーションが流れた醜い顔があった。こんな顔、倉田先生にさらしていたんだ。汗拭きシートも見られたし。
よく見ると、後ろで一本で結んだ髪もボサボサで、生活に疲れた感じがありありと出ている。
最後に髪を切ったのいつだろう……。
指で軽く髪を梳かし、髪を結び直した。今さらだけど、メイクも直した。これで少しはマシになったと思ったけど、どこからどう見てもくたびれたおばさん。
おっさんって呼ばれたり、汗拭きシートってあだ名まで付けられた。
第三者の言葉でこんなに傷つくとは思わなかった。
悲しくて、悔しくて、惨めな気持ちでいっぱいになる。
気持ちをぶつけるように、洗面台を拳で叩いた。
痛い……。
思ったよりも硬かった。でも、手の痛みよりも心が痛い。
仕方ないじゃない。子ども二人育てて、夫の面倒を見ていたら余裕なんかなくなるのよ。おばさんになっていくんだから。
うっ、悔しい。
こんな事で泣くもんかって思うのに、じわりと目の奥が熱くなる。
こんな事してる場合じゃないのに。
早く帰って夕飯作らなきゃ。健人も誠もお腹をすかせている。スーパーに寄って、夕飯の材料買わなきゃ……。
最初のコメントを投稿しよう!