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「今日はありがとう」
その後、二人で自分たちの昔話をした。
若槻だけ話して私が話さないわけにもいかない。彼女を恨んでいたこと以外は余すことなく全て話した。彼女は親身になって私の話を聞いてくれた。
なんだかそれがすごく嬉しく感じた。
「こちらこそ、広香のこと色々知れて良かったよ」
若槻は門戸まで私を見送ってくれた。夕日に映る彼女の姿はとても華やかで今この場面を絵として描きたいほどだった。
「また来てもいい?」
「いつでもいいよ。来てくれたら、霧島さんも喜んでくれるだろうし」
「じゃあ、次は冬休みに『地獄の絵描き大会』でもやろうか?」
「それは絶対やだ」
「冗談冗談、じゃあ、またね。神奈」
私はそう言って手を振った。神奈は瞳を大きく開く。その後の彼女の反応を見ることなく私は帰路の方を向いた。神奈の言葉で散々気持ちを振り回されたのだ。最後くらい仕返ししておいてやらないと。
空に光る茜色の夕日を見ながら私は一人でに微笑んだ。
彼女の優しさの理由は『人の経験に対する尊敬』だった。私も今後付き合う人に対して、そうやって思えるようになりたいと心から願った。
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