優しさの理由

1/5
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ

優しさの理由

「賞状。優秀賞。雪鷺 広香(ゆきさぎ ひろか)。貴殿は第6回高校生ナショナルアートワークスに於いて頭書の成績を収められました。依ってここに栄誉を称え表彰致します。令和7年8月24日。NPO法人。世界美術文化振興協会。会長下田晴之(しもだ はるゆき)。おめでとう」  校長先生に差し出された賞状を、私は両手で持つと、礼をして受け取った。そのタイミングで全校生徒数百人から拍手が送られる。体育館に響き渡る甲高い音は聞いてて心地よかった。  両手で持った賞状を片手で抱えると先ほど自分のいた位置へと戻っていく。戻る最中、私の位置の隣にいる生徒が私の方を見ながら拍手を送っている姿が目に映る。リハーサルでは舞台に立っている生徒は拍手しない事になっているのだが、我慢しきれなかったみたいだ。 「広香、おめでとう」  私が横につくと彼女は小声でそう言った。私は不貞腐れたような声で「ありがとう」と返す。そんな私に対して嫌な顔一つせず、彼女は笑みをこぼしっぱなしだった。  次に彼女の名前が呼ばれ、私から顔を背けると校長先生の方へと歩いていった。  揺れるさらさらとした綺麗な茶色のロングヘア。私よりも少し小さな体。しかし、私から見れば、彼女はとても大きく感じた。それはきっと、私の中にいる彼女の存在が投影されているからだろう。 「賞状。チャールズ皇太子賞。若槻 神奈(わかつき かんな)。貴殿は第6回高校生ナショナルアートワークスに於いて頭書の成績を収められました。依ってここに栄誉を称え表彰致します。令和7年8月24日。NPO法人。世界美術文化振興協会。会長下田晴之(しもだ はるゆき)。おめでとう」  校長先生から渡された賞状を若槻は両手で受け取った。  会場から飛び交う拍手は先ほどと変わらず。私が拍手しなかった分、むしろ劣っているのかもしれない。みんな彼女の才能を軽視しすぎている。これが仮に美術学校だったら、スタンディング・オベーションしている生徒もいるだろう。  若槻 神奈。今日本で一番の芸術センスを有した本物の『天才』だ。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!