第二章「知らない昨日の続き」

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「メイちゃん、メイちゃんってば」  マオちゃんの小声にハッとして顔をあげたら、先生がわたしを見ている。 「朝倉さん、ボーッとしてないで、この問題を解いてください」  黒板に書かれた算数の問題を、ヨウコ先生はコンコンと鳴らすようにして示している。  ん? もしかして、前に出て解けってこと⁉  そんなの習ってない、というか、もしかして、わたしがボーッと考えごとをしている内に?  『わかりません』と言う勇気もなく、トボトボと黒板の前に立ち、チョークを握る。  ダメだ、やっぱり全然わかんないよ。  そう思った瞬間、チョークを持っていたわたしの右手が勝手に動き出す。 「えっ」 「なんですか、朝倉さん?」 「い、いえ、なにも」  右手を止めようとしても、ダメ。  パニックになるわたしには、おかまいなしで勝手にスラスラを計算式を書き、答えを出す。 「はい、大正解です。朝倉さん、席に戻って。じゃあ、次の問題は――」  わたしの答えにヨウコ先生はピンク色のチョークで花丸を書いてくれた。  答えを書き終えた瞬間、自分の意思でまた動くようになった右手をグーパーしながら、席に戻って手のひらをみつめた。
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