第二章「知らない昨日の続き」

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 おかしい、何かがおかしい。  そして、その「おかしい」は、その日一日わたしの周りで起きた。 「メイちゃん、すごい!」  今まで三段しか飛べなかった跳び箱を、五段飛べたことにビックリしたのは、クラスのみんなではなく自分自身だった。 「朝倉さん、六段も跳んでみる?」 「い、いえ、少し足を痛めてしまったので」 「あら、保健室に行きましょうか」 「大丈夫です、休んでればきっと」  ヨウコ先生の提案にあわてて首をふったのは、六段どころか今なら十段でも跳べそうな気がしたから。  助走をつけた瞬間、体がとても軽くなるのがわかった。  ロイター板に乗った瞬間、どこまででも跳んでいけそうになる。  まるでネコみたいに? ん? ネコ?  体育館の隅で膝をかかえて座りながら、開いた窓の向こうに黒く動くものが見えてギョッとした。  チロル!?  目をこすったら、もうそこには何もいなかったけれど。  緊張でしどろもどろになっちゃう国語の音読も、今日はスラスラ読めたし、掃除の時間も誰よりもテキパキ動けた。  なんなら、隣のクラスの廊下までキレイにしてしまって「今日のメイちゃんって、なんかすごい!」とマオちゃんが首をかしげていた。  うん、わたしもそう思う。  だって、まるでわたしじゃないみたいだったもん。  勝手に体が動く、そんな感じだったから。
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