34人が本棚に入れています
本棚に追加
「よく、ママの言おうとしてることがわかったわね!」
そう言って、ママは自分が食べ終わったお皿の上に、愛用のカップを置いて立ち上がる。
「ダメ、ママ! 壊れちゃうから、重ねないで!」
残念ながら、わたしが思い出した時には、すでに遅かった。
お皿の上でグラグラ揺れた不安定なカップは床に落ち、取っ手が割れて壊れてしまった。
ああ、お気に入りだったのになあ、と呟きながら掃除を始めたママが、わたしを見る。
「あーあ、もう。楽しようとして重ねたママが悪いよね」
苦笑いして舌を出したママに首を横に振った。
さっきからなんだかおかしい。
ううん、起きた瞬間から、なんだかおかしい。
「あのね、ママ。わたし、変なの」
「ん? 変って、なにが?」
「昨日なの。全部昨日のことなんだよ」
「メイ?」
「昨日もパンケーキにイチゴジャムのっけて食べたし。昨日もママが校外学習のおたよりをくれたの。それにね、電気料金の話もママが言ってたことだし、あとカップが割れるのもわたし知ってたの。もっと早く思い出したら止められたのかもしれなくて」
「ん~……、それってもしかしたら、デジャヴなのかも?」
「デジャヴ?」
「そう。本当はね、一度も体験したことがないのに、覚えてる気がするとか、そういうこと。ママもよくあるよ。前に夢で見たかも、なんてこと」
「そういうのじゃなくて、わたしのは」
「ごめんね、メイ、話は帰ってから聞かせて? ママ、今日お仕事早めに行かなくちゃいけなくて、ゆっくりしてられないの。食べ終わったら食器下げて。メイも学校に遅れないように用意してね?」
バタバタと慌ただしく洗面所に向かうママに、ため息をついた。
デジャヴって、こんなにハッキリと覚えているものなのかな?
テレビの画面では今日の占いが流れてる。
やぎ座のわたしのラッキーカラーは。
「今日は黒、空を見上げて深呼吸したらいいことあるかも」
占いより先に自分で言い当ててから、ブルブルっと首を振ってテレビの電源を落とす。
デジャヴ、これがデジャヴなんだ。
イチゴジャムのついたパンケーキを牛乳で流し込む。
昨日ほど味がしない、そんな気がした。
最初のコメントを投稿しよう!