第一章「もう一つの昨日」

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「よく、ママの言おうとしてることがわかったわね!」  そう言って、ママは自分が食べ終わったお皿の上に、愛用のカップを置いて立ち上がる。 「ダメ、ママ! 壊れちゃうから、重ねないで!」  残念ながら、わたしが思い出した時には、すでに遅かった。  お皿の上でグラグラ揺れた不安定なカップは床に落ち、取っ手が割れて壊れてしまった。  ああ、お気に入りだったのになあ、と呟きながら掃除を始めたママが、わたしを見る。 「あーあ、もう。楽しようとして重ねたママが悪いよね」  苦笑いして舌を出したママに首を横に振った。  さっきからなんだかおかしい。  ううん、起きた瞬間から、なんだかおかしい。 「あのね、ママ。わたし、変なの」 「ん? 変って、なにが?」 「昨日なの。全部昨日のことなんだよ」 「メイ?」 「昨日もパンケーキにイチゴジャムのっけて食べたし。昨日もママが校外学習のおたよりをくれたの。それにね、電気料金の話もママが言ってたことだし、あとカップが割れるのもわたし知ってたの。もっと早く思い出したら止められたのかもしれなくて」 「ん~……、それってもしかしたら、デジャヴなのかも?」 「デジャヴ?」 「そう。本当はね、一度も体験したことがないのに、覚えてる気がするとか、そういうこと。ママもよくあるよ。前に夢で見たかも、なんてこと」 「そういうのじゃなくて、わたしのは」 「ごめんね、メイ、話は帰ってから聞かせて? ママ、今日お仕事早めに行かなくちゃいけなくて、ゆっくりしてられないの。食べ終わったら食器下げて。メイも学校に遅れないように用意してね?」  バタバタと慌ただしく洗面所に向かうママに、ため息をついた。  デジャヴって、こんなにハッキリと覚えているものなのかな?  テレビの画面では今日の占いが流れてる。  やぎ座のわたしのラッキーカラーは。 「今日は黒、空を見上げて深呼吸したらいいことあるかも」  占いより先に自分で言い当ててから、ブルブルっと首を振ってテレビの電源を落とす。  デジャヴ、これがデジャヴなんだ。  イチゴジャムのついたパンケーキを牛乳で流し込む。  昨日ほど味がしない、そんな気がした。
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