第一章「もう一つの昨日」

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「いってきまーす」    ママに見送られて、玄関のドアを開けたらお向かいの三井(みつい)さん家のドアが開いた。 「おはよ」  口を開いたわたしと目が合っているのに、三井日向(ひゅうが)は、物も言わずに歩き出していく。  これはいつものことだ。  特に昨日と同じではない、五年生になってから毎日のこと。  四年生の終り頃までは一緒に学校に行っていたのに、女子と一緒に歩くのははずかしいって急にそっ気なくなっちゃった。  ヒューガのかわいくない態度に、いつもはイラッとしてしまうのに、今日はなんだかホッとしてしまう。  学校までの十五分、ヒューガの後ろをつかず離れず歩く道。  全てがいつも通りの道の中、小さな交差点を前になにか大事なことを忘れている気がした。  ひらり、ひらりと桃色の花びらが春風に舞う。  もうじき、桜が全部散ってしまうんだ。  さびしい気持ちになって足元に落ちていく花びらを見ていたら。 「あのさ、昨日、オレさ」  その声に顔をあげると、五メートルくらい前を歩いていたヒューガがピタッと足を止めてわたしを振り返っていた。 「昨日……?」  もしかして、ヒューガもわたしと同じように、昨日のことを覚えている⁉
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