第一章「もう一つの昨日」

5/11
前へ
/79ページ
次へ
 ヒューガの顔を見た時、空にチカッと光る何かを目の端でとらえた。  あ……!!  わたし、知ってる、あの光ったもの。  だって!  空を見上げたら、雲の切れ間から黒い点が落ちてくる。  小さな点は少しずつ大きくなってくる、あれは――。  ネコだ、黒ネコだ。  昨日、ゴムマリみたいに弾みながら道路に転がってきて、車にはねられたあの子だ!  あわてて両手を広げて、黒ネコがどこに落ちてくるのかをオロオロしながら歩き回る。 「なんだ、あれ? カラスか?」  ヒューガもわたしがなにを見ているのかわかったみたい。 「ネコだよ、黒ネコ」 「なんで、ネコが空から?」 「知らない、でも道路に落ちたら怪我しちゃう。助けないと」  きっと、あのネコは昨日、道路に落ちた衝撃で動けなくなっちゃって、それで事故にあったんだもの。 「メイ、こっち側持て!」 「え?」  ヒューガは急いでランドセルを降ろすと、自分の上着を脱いで広げ、片側をわたしに持てと言う。  この上着でネコをキャッチしようって、そういうこと?  あわてて上着を掴み広げながら、ネコが落ちてくる方に二人で走り回る。
/79ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加