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15 開戦
瑞穂から報せを受けた稚羽矢は、すぐに志世良に報せた。
夜半、隠密に各集落頭が集められ、早朝の攻撃に対する作戦が練られた。
瑞穂は稚羽矢と共に催事場に向かい、古来より伝わる陣を枝で地に描いた。
屋根のない地面の方が、陽の光を直接感じる事ができ、襲撃に備えられると判断しての事だった。
描いた陣内に、社殿から用意した大鏡を倒れぬように置く。
満穂自体、高さのある掻楯で囲んでおり、更に集落毎にも掻楯を立てている。その中の催事場も掻楯で囲んでいるため、三重の囲いとなっており、敵が辿りつくのは不可能と思われた。
催事場は日が暮れるまで、陽の光が当たる神聖な場所だったため、瑞穂か神への祈りを捧げる場所として選んだのは、当然の事と言えた。
◇ ◇ ◇
まだ夜が明けきらぬ内、物見櫓から大声が響いた。
「攻めて来たぞー! 弓矢三十余り、槍二十余り、剣が三十余りぞ! 油断するな!」
ヒュ、と音を立てて何本も矢が櫓に打ち込まれるが、高さがあるため早々には届かない。
秦の作戦どおり、高さのある柵と垣盾が功を奏した。
それでもなんとかよじ登る者が現れ、満穂の弓兵が矢を放ち、雨の様に天原勢に降り注ぐ。
天原勢もなんとか掻楯を壊そうと槍で突き、体当たりし、岩を投げる者もいた。
満穂と天原のせめぎ合いが続く。
掻楯の一部が破壊され、天原勢がなだれ込むと、弓矢を番えた者と槍を持つ者、持盾と剣をもった者と満穂の村人たちが、兵士となって天原に立ち向かった。
満穂の持つ鋭利な武具は殺傷力が高く、次々に天原の兵士たちが土埃をあげて、倒れる。
老いも若きも、または女人まで、相手の急所を的確に仕留める。満穂の村人の様子に、天原勢は驚いた。
優勢だと思われた天原は、徐々に追い詰められていく。
満穂は争い慣れていないため、早々に決着がつくと踏んでいた天原王は、夜営地の丘陵から状況を見て、臍を噛む。
自ら満穂に乗り込み、叫んだ。
「火攻め、用意! 満穂を滅せよ!」
天原勢は王の命に従い、魚油を染み込ませた布を巻き付けた鏃に火をつけ、あちこちから放つ。
秋の涼風が立つ乾燥した空気と、稲わらを積み重ねた稲積が点在していたことも災いした。
炎はあっという間に燃え広がり、満穂は混乱に陥った。
「落ち着け! 水を持て!」
互いに声を掛け合うが、燃え盛る炎は勢いを増し、明けきらぬ夜空が朱に染まる。
混乱の最中、天原王は催事場の瑞穂を狙っていた。
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