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20 祝言
須佐は満穂王に対面し、長い時間話し合った。
自分が課せた「混乱した天原を三年以内に平定させる」という問題を一年満たずに、果たした。
瑞穂が手を離れることは寂しいが、戦以来社殿に引きこもり、祈祷の日々送る娘を心配していた満穂王は、須佐の申し出を受け入れた。
身内であっても正義のために自分の父を討ち、瑞穂のためだけに動いた須佐は、瑞穂を幸せにできる男であろう。
満穂王は稚羽矢の後、瑞穂に仕えている留波野に火急の用向きがあると伝えた後、須佐を社殿に送った。突然、須佐が社殿を訪れた方が、瑞穂の喜びが大きいだろう。多分、瑞穂は須佐に好意を抱いているだろうし。
幸せにおなり。私の愛おしい巫女姫よ。
満穂王は優しく微笑みながら玉座から、離れた社殿を眺めた。
◇ ◇ ◇
父王から火急の用向きと聞いて、対面準備をしていた瑞穂は、やって来た須佐に驚いた。
瑞穂は戦以来、人々を守れなかった事を悔い、自分を責めていた。
巫女と名乗る資格は自分にはない、神力を失ったと悩んでもいた。
それを聞いた須佐は、事もなげに瑞穂に言う。
「ならば巫女を辞め、人になれば良い」
「それは、どういうこと……?」
不思議そうな瑞穂の手を取り、須佐が言った。
「私の妻になれば良い」
瑞穂は涙を浮かべて言い募る。
「多くの人を助けられなかったのに、私だけ幸いとなることはできない」
「人が死ぬのは、この世の道理。そなたのせいではあるまい。それに、そなたが巫女を辞めるのは、私の妻になるほか、あるまい?」
豪胆な須佐の回答は、瑞穂の暗い気持ちを断ち切った。
「それにな。そなたが亡くなった者達を思うのであれば、そなたが成すべきことは、泣きながら祈ることではない。天原と満穂を安寧に統べることができる後継者を作り育てることよ。民の幸せを第一に考えよ」
須佐は立上がり、瑞穂を立たせて引き寄せる。
瑞穂の目を真っ直ぐに見つめて繰り返した。
「巫女姫を辞め、我が妻となれ。私にはそなたが必要なのだ」
瑞穂が小さく頷いて承諾すると、須佐は瑞穂を力いっぱい抱きしめた。
二人の結婚は満穂王が認めていることもあり、村人からも盛大な祝福を受けた。
巫女から人になったが、満穂と天原ではその後の戦乱もなく、良き王と良き妃の治世となったと言う。
統一した文字もない時代、人々は伝承で語り継いだ。
かつて満穂国には、国を護った巫女姫がいたと言う事を。
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