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7 祭り
満穂は朝から賑わっていた。かつてないほどの大規模な祭りに、皆が忙しく動き回って準備する。
村の中心である催事場では、神楽殿を囲うように、観覧席を作っている。王と貴賓のためには丸太の椅子が運ばれ、身分の高いものには蓙、村人用には筵が敷き詰められていた。
村の女たちは、おしゃべりに花を咲かせながら、賑やかに、竈で煮炊き。志世良や他の男たちが獲った大きな猪や鹿、山鳥を汁物や焼き物にしていく。
海や川から採ってきた魚や貝なども、焼かれたり蒸されたりして村中に、芳ばしい香りが立ち上っている。蕪や菜、小豆、粟、柿、山葡萄、山栗やくるみなど山の果もたくさん集められ、子どもも楽しめるように工夫が為されていた。
村の入口門には見張りの男が二人ついているが、普段と違い、笑顔で人の行き来を見守っている。
満穂村の周囲は、川の水を引き入れた深い堀を巡らせているため、村の外へ行く場合には入口門に設けた橋を渡る。堀の内側には、先端を尖らせた丸太と縄で繋ぎ合わせた柵で囲っており、大人の男でもやすやすとは超えられない。満穂を狙う国々の行く手を阻む、鉄壁の守りであった。
訪れた近隣国の使者は、整備された満穂村の様子に驚いた。
「どこかしこも、整備されておる」
「驚いたことよ 入口門の物見櫓の高いことを。狼煙も炊かれていた」
「これだけ馳走を揃えられるのも、見事なものよ」
「見たか、異国の者たち専用の居住区があるぞ。村人の居住区とは区画し、諍いが起きにくくなっている、よくぞここまで考えたものよな」
口々に驚きを囁きあう。
仮面を被った男たちの踊りが始まった。
炎を囲み、土器に動物の皮を鞣して貼った鼓を打つ者、土笛を吹く者と歌う者が祭りを盛り上げる。
酒もごちそうも途切れることなくふんだんに振る舞われ、訪れた客人たちに、満穂の豊かさを大いに見せつけることが出来た。
日が暮れて皆が酔いに身を任せる頃、辺りに銅鑼の音が響いた。皆が神楽座に目を向けると、神楽座の周りは、夜なのに昼のように明るく篝火が炊かれている。
そこへ琴と竹笛の音が重なり、不思議で心地よい旋律が流れる。その柔らかくも厳かな空気感に、賑わっていた場は静まりかえった。
音もなく、神楽座に巫女姫が現れた。白装束に鮮やかな唐紅の薄衣を被り、顔は見えない。
巫女姫は琴と笛の音に合わせて、舞う。
指先までもしなやかな巫女姫の舞に、皆が息を飲んで見つめる。
「あらゆる神よ 諸々の禍事 穢れを祓い給え 遠つ国々にも あまねく神の寿ぎを 永久の安寧を あたえ給え」
涼やかな巫女姫の声は、よくとおり、響いた。
薄布に隠れた顔は見えそうで見えず、巫女姫を余計に神秘的に見せる。
舞とともに、言祝ぎ、祈る。満穂を始め、遠い国々にも神々の寿ぎが訪れるよう、心を込めて。
松明の煙、不思議な音色の琴や笛の効果も相まって、この日の巫女姫の舞は、訪れた人々の心に強く印象付けられ、満穂王の目論見は成功したと言えた。
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