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日比谷公園の緑の鮮やかさと目の覚めるような空の青は、尾行という仕事の真っ最中である虎之助にささやかな安らぎをもたらす。
夏の晴天の下、懐かしい友との集いは他人事なんだけど、なぜか虎之助もウキウキとした気分になった。
津島京子の自宅前から後をつけ、JRから地下鉄に乗り換えて日比谷駅で降りた京子は、改札の外で輪になっている仲間を発見すると、子供のように浮足立って甲高い声をあげ存在を知らせていた。
「ごめ~ん、ちょっと遅れちゃった!けど、私よりまだ遅い人がいるの?」
「そ!梶谷君が20分くらい遅れるから先に店に行っててって、ラインがきたとこなんだ。ツッシーが来たら出発、なのよ」
輪のすぐ背後に立ち、スマホに集中するかをよそおっている虎之助の耳に届いた声から察すると、つまりはこの場でのビリは京子さんってことか、とチラリと京子の顔を盗み見た。
その時の京子の顔。一瞬だったが口元に小さく笑みを浮かべた。周りにいる同級生たちは気が付いたかどうかわからないくらいの一瞬さだったが、探偵・明智五郎は遅刻野郎の梶谷君が今回の関係者ではないかとピンときた。
それは、何度か見てきた不倫当事者に見られる小さな共通点だと学習していたから。複数人の中での秘密にはそうとうのスリルがあるようで、気づかれていない事と、この中から選ばれたのが自分だ、という優越感が必ずと言っていいほど表情となって現れる。先に宴を始めている輪の中に、一人堂々と登場するお相手と、どう挨拶を交わすのか。その場面を想像すると思わず微笑んで、いやほくそ笑んでしまうのも分からないでもない。と、虎之助も想像できるまでに成長したのだった。
・・梶谷君の顔見るのが楽しみだな・・
思わず虎之助までほくそ笑んで肩をすぼめた
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