男性客からの調査依頼

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 平日の午後3時という中途半端な時間を予約した依頼者の津島弘明は、約束時間の5分前にコノミ書店にやって来た。  風貌はサラリーマンそのもの。30度を超える暑さの中でさすがに上着を羽織ってはいなかったが、しっかりと手にしているところとネクタイを締めているところが昭和世代だと、弥生は親近感を抱きながら迎えた。 「いらっしゃいませ、江戸川でございます。どうぞ、こちらへおあがりください」  招き入れる弥生に津島が続く。さらにその後一拍遅れる形で、虎之助が麦茶と冷やしたおしぼりを盆にのせて続いた。  ソファに座るとすぐに前に置かれた麦茶のグラスとおしぼりに頬を緩めた津島は、 「行き届いていらっしゃいますね。最近では取引先でもあまり見ない光景ですよ」 そう言いながら手にした冷たいおしぼりを思わず首に当てたが、慌ててすぐに外した。 「すみません、居酒屋でやるみたいなことしてしまって」 「いいえ、気になさらないでください。私たちの世代はついついやってしまいますよ。それにこの暑さですしね、どうぞご遠慮せずに」 その言葉に恐縮しながらも再び熱を帯びた首筋におしぼりを当てる依頼者。さすがにおしぼりを広げてガシガシと顔を拭くことはしなかったが、かなり涼をとれたようだった。
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