男性客からの調査依頼

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「こんな時間までどこへ出かけていたのかと聞くと、私と同じように旦那の帰りを待っているだけの友達から急に食事に誘われたと言っていました。私の食事の支度は済ませてあるから安心してよって、笑っていました」  津島は、この後何を話せばいいのかと考えているようで、視線を泳がせながら麦茶のグラスに手を伸ばした。たったこれくらいのことで浮気を疑っているのかと思われているのではないか、と弥生の表情を盗み見る男の頼りなさげな目から彼の気持ちを察した。  少なからず弥生も、そう思う。疑わしい相手からの電話やメール、疑うだけの証拠があるならまだしも、どうやらそういう事はつかんでないらしい。では、何を根拠に浮気を疑い、探偵事務所に調べてほしいと思ったのだろうか。 少し切り込んでみるか、と弥生は居ずまいを直した。 「決定的な証拠があるわけではなさそうですが、ではなぜ浮気の可能性を考えているんですか?」 短いが的を得た問いかけに、津島は小さく笑いながら頭を指先で掻いた。 「実は私も半年ほど前同窓会がありましてね。こっちは高校の同窓会、私は出身が神奈川なんですけどね。そこで話題に上ったんですよ、同窓会で再会して不倫に発展って話が。仲の良かった奴が、中学の同窓会で実際にそういう事があったって。今回は大丈夫か?なんて、男子も女子も一緒になって探り合いです。でも私らの仲間内ではそんな色気のある奴はいないし、頼まれてもごめんだよなんて女子に憎まれ口を叩かれて終わりでした。だけど、実はあったんです。笑い飛ばしていた仲間の中で。信じられませんでしたよ。さんざん不倫をバカにしていたのに」
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