3話

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「――明日の行き先は俺の方で決めておくな」 「はい。お願いします」 「楽しみにしてる。じゃあ……また明日。おやすみ」 「おやすみなさい」 軽く手を振って車に戻っていく長谷川さんを、見えなくなるまで玄関の前で見送る。 「また明日、か――」 長谷川さんからその言葉を言われたのは、すごく久しぶりだな。一緒に働いている時は、当たり前過ぎて何も感じていなかった帰り際の挨拶なのに、今はそれが少しだけ特別に感じられた。 「――それよりも、明日何着ていこう?」 少しだけノスタルジックだった気持ちが、明日のことを考えると一気に現実に戻ってくる。 2人で食事をした帰り、車の中で「明日は休みだし、デートしよう」と長谷川さんに誘われた。残業中にかかってきた電話の用件は、本当はそれだったらしい。 特に断る理由なんてないから、何も考えずに頷いてしまったけど。 「デートに来ていく服なんてあったかな……」 しばらく誰ともデートなんてしてないから、それらしい服なんて随分買っていない。 「うーん……デートだし、やっぱりワンピース……?」 クローゼットを開け放ち、手持ちのワンピースを次々ベッドの上に置いていく。 どれもこれも、数年前に購入したものばかり。つい最近購入したワンピースもあるにはあるけど…… 「流石にこれは……」 私にしては、少し派手めなピンク系のワンピース。これはこの間の婚活パーティー用に購入したものだし、同じ服を着ていくのってどうなんだろう。長谷川さんもまだ記憶に残ってるだろうし、同じ服だって思われるのもなんだかなあ…… 「こうやって見ると、私本当に最近女として何事もなかったんだなあ」 自分で言いながら苦笑してしまう。 誰かにデートに誘われるなんてことは勿論無かったし、良い雰囲気にすらなることは無かった。自分が気付いてないだけってことも、多分無い。だから、婚活パーティーにも行ってみようと思ったんだし。 「あ、これ……」 どのワンピースもいまいちピンとこなくて、もう一度クローゼットの中を見ると、いつだったかお店で一目惚れして買ったスカートが目に入った。 レースがあしらわられた綺麗なスカートは、見た瞬間即決だった。なのに、着る機会が全く無くてずっとしまいこまれてしまっていたのよね。 「これにしよう。これがいい」 長谷川さんの趣味かは分からないけど、今の手持ちだとこれが一番しっくりくる。 そうと決まれば、上は何を着ようかな?これに合うようなトップスあったっけ…… またクローゼットの中から服を引っ張り出しては、鏡の前でスカートと合わせて、あーでもないこーでもないと1人頭を悩ませる。誰かと会うのに、こんなに服に悩むのも久しぶり。 ベッドの上に服の山が出来上がっているのも気付かず、1人ファッションショー状態は深夜近くまで続いていた。
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