4811人が本棚に入れています
本棚に追加
「――や、やだなあ長谷川さん。冗談は止めてくださいよ。私が本気にしたらどうするんですか」
色々逡巡した後、笑って冗談として受け流すことにした私を、長谷川さんはしばらく無言で見つめた後、ふっと表情を緩めた。
「そうだな。流石に急すぎた。俺が言ったこと忘れていいぞ。今はな」
「今は……?」
どういう意味……?
困惑しながら長谷川さんを見つめても、答えは返ってこない。
「そろそろ着くぞ」
その言葉に前を見ると、見慣れた景色が広がっている。
マンション近くに車を停め、自分で降りようとした私を制した長谷川さんは、すぐに車を降りたかと思うと乗り込む時と同じように助手席のドアを開けてくれた。
「頭気をつけろよ」
「すみません。ありがとうございます」
そこまでしてもらわなくても……と、やっぱり恐縮しながら車を降りると、長谷川さんに頭をポンポンと撫でられた。
一緒に働いていた頃にも、褒めてもらった時にたまに撫でられていたけど、今はその行為がなんとなく恥ずかしく感じて、長谷川さんの顔を見られない。それは、さっき長谷川さんが言った言葉を、私が意識してしまっているからかもしれない。
「――送って頂いてありがとうございました」
「どういたしまして。疲れてるみたいだし、ゆっくり休めよ。今度連絡する」
満面の笑顔でそう返えした長谷川さんは、しばらく私を見続けた後、ようやく車を発進させた。
その姿が見えなくなるまで見送った私は、大きく息を吐き出して全身から力を抜いた。
長谷川さんの、冗談か本気か分からない言葉に振り回された感がある。
長谷川さんって、あんなこと言うタイプだっけ……もしかしたら、婚活パーティーの影響でテンションがおかしかったのかな。
「うん。多分、きっとそうよ。――それにしても、今日は本当に疲れた」
婚活パーティーの影響――私は、長谷川さんの言葉を冗談だと結論付けることにした。
最初のコメントを投稿しよう!