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ゆらゆらと揺れるひまわり畑は、黄金のさざなみのようだ。水平線へと続いた黄色は今度は水色に切り替わり、上に行くにつれて濃く深く広がっていく。 僕は窓に頭を預けながら、過ぎてゆくそれらをぼぅっと眺めていた。 僕と数人の客を乗せたバスは、穏やかな波の合間を縫うように走って行く。エンジンの音や乗客のひそひそ声、振動や揺れが生まれているにも関わらず、とても静かな空間だった。 何処まで行っても同じ風景。もう何処を走っているのか分からない。 僕は内ポケットからスマホを取り出した。ジャケットの内側へと向かう指先が途中、チケットポケットに軽く引っ掛かり僅かに震えた気がした。いや、恐らく僕の気のせいだろう。カメラアプリの隣にある緑色のアイコンに触れればメッセージアプリが開いた。 日本で帰りを待つ彼女に、『頼まれていたお土産はちゃんと買えたよ』とだけ送り、僕は目を閉じた。静けさに溶けるような錯覚を覚えながら。 そして次に目を開けた時、貴方がそこにいる事を願いながら。 暗闇の中、僕にしか聴こえない僕だけのために流れ始めた曲は映画『ひまわり』のテーマ曲だった。
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