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残業
同日 7:19 PM 墓地
所変わって、オリバーは墓石の前で一人しゃがみ込んでいた。
「悪いナンシー……まだ、捕まえられてないんだ……」
俯き伏せたその眼にはうっすら涙が浮かんでいた。
「勿論諦めてない!絶対見つけて捕まえるッ」
墓石にはナンシー・シュリーブの名が刻まれている。オリバーの妹の名だった。
彼はスーツからオニキスのペンダントを出して墓の前に添えた。
それはナンシーの誕生石。
「だから……もう少しだけ待っててくれ……誕生日おめでとう」
零れせそうになる涙を手で拭っていると、スマホが着信を知らせた。
「はい……」
『警官から連絡が入った』
「警部、俺はも上がってッ」
『刑事と名乗る男が女と少年を引き連れ閉店したショッピングモールに『通報があった』と嘘を吐き侵入したらしい』
オリバーは顔歪め立ち上がった。
「まさかその侵入した三人って……」
『それをお前が確認してこい。違うとは思うが一応あの馬鹿神父に連絡したところ繋がらなかった』
「残業代は出るんッ」
――ブツン
無情にも通話は切られた。
「ハァ――ッ……ったく!あのアホ神父が!」
オリバーは不機嫌を露にしつつ妹の墓石を後に掛け出した。
(盗まれたらマズイ)と思い回収する筈だったペンダントもそのままに。
その後オリバーがショッピングモールへと到着すると、警官二人と通報した女性が両手をコートのポケットに突っ込みデパートの入り口に立っているのを発見した。早々に状況を尋ねる。
「なるほど、刑事と名乗る20代の男と同じく20代の女性、眼鏡をかけた12、3才位の少年……」
説明を受けたオリバーの頭にはジャック、アイラ、アルフィーの三人しか浮かばなかった。
ジャックらを知る警官ら二人も同じ考えであり、警部に連絡を入れたのも彼らだ。
「ご安心を、恐らくその男は本物の刑事です。思い当たるバカがいる」
「本当にッ!?ぁあやだ私てっきりッ」
「いいんです、連絡したのは正解だ。私でもします。バカで怪しすぎる」
オリバーが「じゃ、声を掛けて行きますんで」と中へ入ろうとすると‥
「ああ、あとお店の鍵は彼が持ってるんだけど……私はどしたら」
女性店員はオリバーを呼び止め、店の戸締まりが出来ない事を伝えた。
「良かったら車で待っていて下さい。その間店は彼らが見張りをしてくれるから」
オリバーが警官らに視線を送ると、二人は「仕方ない」とばかりに肩をすくめた。
「鍵を閉めたら貴女に届けるので、彼らに連絡先を教えといて下さい」
「分かったわ」
「それと後で僕にも、専用の連絡先を」
オリバーはウィンクを決めると今度こそモール内へと入って行った。
「私……既婚者よ」
女性と警官らは半笑いを浮かべた。
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