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おかげで陽葵も『乃愛がいるから安心』と任せてくれている。
そんな幼馴染みの感覚で笑いが出たところで、乃愛の心も軽くなる。
そう大河と陽葵のように。戸塚中佐とアイアイさんも強い絆で結ばれた夫妻であるはず。あの気高い男性が常に自慢しちゃう奥さんなんだから。
だからこそ、噂を流したやつも、広めているやつも、『戸塚夫妻を侮辱している』ことになる。
乃愛が不倫相手にされたことよりも、戸塚中佐の気高さを貶したこと。そちらに腹が立つ!
そして乃愛は密かに心配する――。
この噂はそのうちに上層部に周知され、戸塚中佐にも知らされるかもしれない。奥さんに届いて欲しくない。
それまでに立ち消えたら一番良いのだけれど、と乃愛は願う。
大河が宇品大尉に報告したのち、『それは確かにおかしい。剣崎がホテルまで送ったところを知られているのはどうしてなのか、また何故、こんな噂が流れ始めているのか確認が必要になるかもしれない』とのことで、今度は宇品大尉から、部隊長の長門中佐まで報告されたとのことだった。
それからも、乃愛は何食わぬ顔で業務に邁進した。
カフェテリアで若い男たちが軽口を叩くことはなくなった。だが巡回警備中に艦内を保全のために歩いていると、すれ違う他部署の隊員が近寄ってきて『噂』について話しかけてくることが増えた。『あの戸塚中佐とホテルに行ったという噂が流れている』という報告をたびたび受けた。
心配をして報告をしてくれた隊員に上官もいれば、『飛び込み女が男にも飛び込んだのか』という野次をとばす意地悪い隊員もいた。
それについては、大河と共に淡々と『どこの部署のどの階級の者がどのように話しかけてきたか』をメモしておくことに――。
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