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緑ジャージのその甲板要員がウィンチの点検でもしていたのだろう。その甲板要員がサラマンダーのパイロットへと声をかけていた。
なにを話しかけたのかはわからない。だが、パイロットの男性が興味を示すものだったのだろう。濃紺フライトスーツの男性が、声をかけてきた甲板要員に吸い寄せられるようにキャットウォークへと向かっていく。
そんな光景を目の前に特になにも気にすることもなく、乃愛と大河はその方向へ歩き進む。
だが。サラマンダーのパイロットが呼ばれた甲板要員の目の前に来た途端だった。甲板要員の男がフライトスーツの襟首を掴んだと思ったら、安全柵の外側、海側へと引っ張り込み、そのまま左舷からなにもない海上へと、パイロットの男を投げ飛ばしたのだ。
乃愛と大河は同時に立ち止まり、戦慄する。
声を出す間もなく、パイロットの男が左舷から消えた。
「やめろ! なにをしている!!」
もの凄い声量で叫んだのは、大河だった。
フライトデッキにいる幾分かのクルーたちが大河の声に振り返った。
緑ジャージの甲板要員が、乃愛と大河が目撃していたのも関わらず、何食わぬ顔で甲板の中心部へと走り去っていく。
なにあいつ! ヘルメットを被って黒いシールドをしている緑の甲板要員が走り去っていく様を、乃愛は視線で追う。だが多数動き回っている甲板要員の中へと溶け込んでいく――。
「そのグリーンジャージの男、捕まえて!」
追いかけたいがそれどころじゃない。
「乃愛! 万が一だ、準備しろ!」
「ラジャー!!」
乃愛は目元にゴーグルを付ける。
腰にぶら下がっているカラビナ、それをひっぱるとワイヤーが伸びて出てくる。そのカラビナをキャットウォーク沿いにある救助用のウィンチへとひっかける。
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