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「中尉、私、いまめちゃくちゃ怒ってるんですけど」
「抑えろ。暴れるな。あいつらが言いだして流しているわけじゃない。あいつらも『受け手』側で、どこかから聞いて面白がっているだけだ。源じゃない」
中尉である大河のいうとおりだと乃愛も思う。
それでも根拠なきことを、面白おかしく話題にしている配慮のなさは許せない。
「いまから軽口を叩いている若い隊員たちの部署をチェックしてくるから。ここで大人しく待ってろ。おまえのトレイ、一緒に片付けるついでに、そばを通って確認してくる。おまえから近づくなよ」
「ラジャー。中尉」
拳を握っても震えが止まらない。泣きたい気持ちじゃない。腹立たしさの他にならない。
下官の若い男たちに上官である自分が感情的に飛びつくのは、立場的にも少尉である自分が大人げないこと、また上官としての器がないことを意味するから我慢している。
『クインさん、美人の奥さんひとりじゃ満足できないって。美しい男は一発で女を堕とせるからいいよな~』
『若い女と良い出会いがあって、我慢できなかったんか』
まるで小学生みたいにクスクス笑って楽しんでいる。
まあ、若いうちは密閉された艦で管理される生活にストレスが出やすいから、言える悪口で鬱憤を晴らしたい気もちもわからなくもない……。アラフォーで中年なのに、未だに『美しすぎるパイロット』と言われて『気高いクイン』と誉れる男に、まさかの落とせるネタが浮上。ここぞとばかりにこきおろせる。『不倫』という倫理に反する行為を犯した男に対して、正義の名の下、正しい批判が出来る。自分たちの立ち位置は間違っていないから声高く言っても『安全』という心理が後押しをしたのだろう。
でも違う。大事なのは『真偽は如何に』だ。
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