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乃愛はいま自分がこんな立場になって、その大切さを身に染みてかんじている。しかもこちらも慎重に打って出ないと、噂を一気に炎上、延焼させる可能性がでてくる。中傷される側も慎重に対処していかねばならない。上官である大河が乃愛の性格をよく知っていて、釘を刺してくれたのは正解だった。
大河がトレイをふたつぶん手にして、若い彼らのそばを通る。
彼らが着ている作業服、袖のワッペンをちらっと確認したのがわかる。
若い彼らも渦中の女のバディである中尉がそばに来たので、『やべえ』という顔で口をつぐんでうつむいたのがわかる。
だが大河はそれとない素振りでやり過ごす。彼らもホッと胸をなで下ろし、顔を見合わせ『なんともなかった』と安堵した様子が見えた。
食器返却口でトレイを返した大河が、そこから乃愛に視線を送って『出るぞ』と出口へ視線を流すアイコンタクトを送ってきた。
乃愛は若い彼らのテーブルを避けるルートで大河を追った。
カフェテリアを出て通路で大河と合流する。
「総務の海曹みたいだ」
「ふうん」
「まあ、上官のことは面白おかしくネタにして楽しむお年頃だよな」
「私もそう思っていた」
「どこから流れてきたかだよな。おまえも謂われのないこと流されておもいっきり『名誉毀損』で悔しいと思うけれど、それ以上に、クインさんの奥さんへのダメージのほうが心配だ。妻が妊娠中で男が浮気しやすい時期にぶっ込んでくるなんて、それらしく信じやすいよな。いちおう、宇品大尉に報告しておく」
「わかった」
大河の落ち着いた対処に賛成だった。
だが隣を歩く大河は、乃愛の様子を上から窺っている。
「おまえ、大丈夫か。こんなことでへこむチビじゃないけどよ」
「チビっていうなっ。いつの話だよ」
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