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そこでやっと、戸塚中佐の背後から羽交い締めするようにして引き留めてくれる隊員が現れる。
「ダメですよ! エミルさん!!」
栗毛の男、御園海人少佐だった。
ジェイブルーフライトスーツを着ている『先輩』のほうが冷静な面差しで必死に抑え込もうとしている。
「無理ですよ!! 隊長!」
さらに黒髪の体格が良いサラマンダーパイロットも前を遮るように入り込んできた。両手を広げ、戸塚中佐が柵を乗り越えないように立ちはだかった。双子パイロットで有名な城戸少佐だった。双子のどちらかは、乃愛にはわからない。
それでも戸塚中佐は、自分より若い青年ふたりに抑え込まれながらも叫んでいる。
「なんで、どうしてだ! 俺の僚機パイロットになったばかりの……! ウィラード准将! なんとかしてください!!」
金髪の飛行隊長の悲痛な叫びが甲板に響く。
ウィラード艦長も驚愕はしているが慌ててはいなかった。
そばにいる補佐官数名が『救命艇は出場済みです、もうじきヘリも離陸予定』、『いま階下から救助用具を投下するところです』、『報告の甲板要員を追跡中です』と報告はしている。
作業中だった甲板要員も見学に来ていたパイロットたちも、キャットウォーク沿いに集まって群がってきた。そんな中、どこかの彼らが叫んだ。『沈んだぞ!!』と――。
もがいていたパイロットの姿が海面から消えていた。
救助具を身につけていないパイロットだから浮遊する補助もなく力尽きたようだった。
その時だった。ウィラード艦長が、ゴーグルをすでに目元にセットしている乃愛へと視線を定めた。
「剣崎少尉だな」
「はい……剣崎乃愛、です」
私の名を知っている。乃愛はそこで一驚した。艦長とは、乗船するクルーをすべて把握している物なのか――と。
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