3.水へ飛ぶ

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 宇品大尉から最終確認と指示を伝えられる。 「おまえのダイビングスタイルだと、ワイヤーが身体に絡まる危険性がある。外していくか?」 「はい、外してもらって大丈夫です。じきにこの場所に救命艇が到着するでしょうから、ライフジャケットのみで待機できるでしょう」 「健闘を祈る」 「イエッサー」  最終確認にて、一度繋いだワイヤーのカラビナが乃愛から外される。命綱なし、単体での飛び込みに挑む。  キャットウォークのふちに立った乃愛に潮風があたる。ショートボブの毛先が頬をくすぐっている。  ハイダイビングは父から教わった。高度からの飛び込みには姿勢がある。  乃愛は姿勢を整え、深呼吸を繰り返し、肺に空気を溜め込む。  体勢を整えているすぐ隣で、大河が囁く。 「乃愛。俺が見失わないようにしてやる。安心して行け」  乃愛も強く頷く。  バディの誓いだ。父と幼馴染みの父がそうだったように。自分たちもそうであれという重要ミッションを前にした時の決意だ。  女が行くのかと、パイロットたちが騒然としている。  でも、DC隊の男たちと、艦長は信じてくれている。  ウィラード艦長の言葉通りだ。  DC隊は、空ではない、水へ飛ぶ。  一瞬だけ目を瞑って神経を集中させた。  目を開けた瞬間、乃愛はキャットウォークの縁を蹴る。  青空の下、艦の外へ、静かに宙へと舞う。  一瞬で落ちていく感覚。青い水へと身体を落とした。
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