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それからゆっくりゆっくりと三原パイロットの身体が浮上し始めた。
乃愛自身も腰に付けている浮遊用ベルトのピンを抜いて空気を注入。自分の身体も浮上し始める。三原パイロットの腰のベルトを掴んで共に上昇する。彼の呼吸が確保できたため、今度は乃愛がノズルを拝借して、こちらも空気を補給する。
徐々に明るく陽が差し込み水色に揺らめく海面へと近づいていく。
その頃には三原パイロットも落ち着いたのか、乃愛に任せて身体をゆったりと動かせるようになっていた。
ふたり一緒に海面に上がり、乃愛はここでやっと『ぷはっ!』と息を吐いた。そしてすぐに吸い込む。はあはあと息を切らして、やっと海面のどこにどのように浮上したかの確認をする。耳に押し込んでいた無線インカムから声が聞こえてきた。
『よくやった、剣崎!』
ウィラード艦長の声だった。
揺れる青い波間で漂っている目の前には、要塞のように立ちはだかっている空母艦。そのずっと上で、たくさんの男たちが手を振って騒いでいたが、乃愛にはもう大河がどこにいるのかわからなかった。それだけ人集りができていた。でも。また耳元のインカムから『そこに向かうよう救命艇に指示済み。あと少しだ。待ってろ』という報告が大河の声で届いて、ほっと顔が綻んだ。やっぱりバディだと――。
「あ、ありがとう……。だ、だめかとおもった……」
三原パイロットも朦朧としているようだったが、はっきりとした意識は保っていた。海中でもがいていた様子を見ても、重篤と思えるような負傷もなさそうだった。
「まさか。女の子が来てくれるだなんて――。名前、教えて」
気恥ずかしくて黙っていたら、パイロットの彼が困ったように微笑んでいる。
そうしているうちに、ゴムボートの救命艇がすぐ目の前に到着した。
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