4.厄女〈わざわいおんな〉

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『大丈夫か』と声をかけながら、三原パイロットからボートへと救助し、その後、乃愛を海面からひっぱりあげてくれた。  救命隊の隊員が無線で『要救助者とDC隊員の二名、キャッチ完了』と報告をしている中、ボートが発進する。  救命艇を操作する中年の上官男性が乃愛を見て声をかけてきた。 「スゲえな。あの高さから。ハイダイビングしてたんだって」 「はい。それがあってDC隊に入ったので。ありがとうございます」 「三原少佐をつき落とした犯人の顔は――?」 「見えませんでした」 「いま、艦内騒然としているよ」  なにか言いたげなその男性の目線、意味深な笑みに乃愛は黙り込む。  この上官は乃愛がなんと言われているのか知っている男だと判ってしまった。  剣崎乃愛がいると『トラブルが起きる』。  不吉な娘。  今回も起きたな。やっぱりな、噂どおりの女みたいだな。  そう言いたいけれど、ここで下手なことを口にしたら、誰にどう報告されるかわからないから遠回しな言い回しで留めているだけ。  剣崎乃愛は、元DC隊長、剣崎透中佐の娘。  沈没寸前となる事故を起こした艦のDC隊長。不吉なものを引き寄せた男。ギリギリで艦を護ったが、バディを死なせた男。剣崎乃愛は不吉な男の娘――。  剣崎乃愛がDC隊として配属された艦は、必ず不吉なことが起きる。  ぼや火災もあった。艦の故障もあった。今回は故意による人身落下。犯罪を犯す男が紛れ込んでいる艦。しかもこれから新しい船出を控えている艦で。不吉な艦にするつもりか。  そんな声が聞こえてきそうで、乃愛は潮風にさらされ冷えてきた身体をそっと自分で抱きしめて身を潜めた。
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