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実家も新島にある。こちらは新島に東南司令本部が設立された初期に開発されたファミリー向けの住宅地にある。
父が新島司令部DC隊に小笠原から配属されてから、当時新興住宅地だったそこに母と二人で住まうようになった。乃愛は訓練校宿舎暮らしを経て、その後は実家から独立。いまはひとり暮らしをしている。
乃愛に兄弟姉妹はいない。一人っ子だ。そのかわり、大河や陽葵といった幼馴染みがいたので、彼と彼女が兄弟姉妹のようなものだった。
実家では、無口で表情をなくした父が鬱屈とした様子で暮らしているので、空気が重く雰囲気が良くない。乃愛もよほどのことがないと帰宅しない。
それでも母はいままでどおりに、新島のファーストフード店のパートをしながらつつがなく暮らしている。母が変わらずに暮らしていることさえわかれば、父が腑抜けた日々を過ごしていても、いまはそれでよしとしている。
大河と陽葵の『杉谷夫妻』もおなじく、海辺が近い軍関係者向け住宅地に住んでいる。こちらは新婚さんでこれから家族も増えるだろうとファミリータイプの大きめの家がある区画に住まいがある。でもおなじ町内といえばいいだろうか。
そんな大河が車に乗せて送ってくれるというので、お言葉に甘えて、彼のボックスカーへと乃愛は乗り込む。
「陽葵、待っているね」
「おう。おまえも昼食に連れてこいって言われたけど、来るだろう?」
「なに言ってるんだか。新婚なんだから、非番のときぐらい夫婦水入らずでゆっくりしなよ~」
「そんな気ぃ遣うなよ」
「いやいや、私は私で、今日は飛ばしたい気分だからさ」
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