6.パイセン

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 母親のことを『かっこいい』と言われたからなのか、御園先輩が『えへ』と照れたので、乃愛は目を瞠る。  なんだか、遠くから見ていたイメージと違うなと初めて感じている。  なんていうか……。栗色の髪、琥珀の瞳、ちょっと色白なかんじの肌に、品の良い顔つき、『貴公子』という言葉がまさに似合っている。その見た目に相応しく凜々しくスマートな人に見えていたのだ。なのに目の前に来た彼は、それに相反して憎めなくてかわいいというか。か、かわいい? 先輩が?? いや、きっと見間違いだと乃愛は密かに頭を振って否定していた。 「この前のダイビング、凄かったよ。スナイダーさんから聞いたんだ。ハイダイビングって、30メートルちかい高さからも行けるんだって?」 「それは父が……です。私はそこまでの高さからは未経験です。もう少し低いです」 「でも、怖じ気づかず身軽にひらりと飛んでいったからさ。まさに、スナイダーさんが喩えた『水に飛ぶ』だった。だから剣崎少尉なら迅速にレスキューをしてくれるはずだと、確信を持って行かせたんだって言っていた」  あの厳格そうなウィラード艦長のことを、親しげに『スナイダーさん』と呼べるだなんて。さすが、高官の息子さん。子供のころから親しんできた顔見知りのおじさんという空気を自然に醸し出す。やっぱりお偉いさんの息子なんだなと若干の畏怖が生じる。  それでもスコーピオンと呼ばれてきた艦長が、乃愛の経歴をそこまで知っていて信じて任せてくれただなんて。手短でも『感謝する』というお言葉を准将殿からいただけただけでも下官には光栄すぎたのに、さらに光栄すぎる……。    そんな准将殿からの素の言葉を運んできてくれたのは、やはり御園家の子息だからなのだろう。
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