6.パイセン

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「エミルさん、えっと、戸塚中佐が、僚機の三原少佐が助かって泣いて感謝していたよ。近いうちに直接に御礼を伝えに行くと張り切っていたから」 「三原少佐は新しくサラマンダーに着任されたばかりのパイロットだったんですよね。戸塚中佐の新しい僚機パイロットだったようなので、飛行隊長としても驚いたでしょうし、心配だったかと思います」 「そうなんだよ。パイロットは骨折とかして症状がよくないと、資格が剥奪されてしまうこともあるんだ。今回は奇跡的に打撲ぐらいで済んだみたいで、あのエミリオさんがもう号泣しちゃって大変だったんだ」  今度は『エミルさん、エミリオさん』。名が知れた上官たちを次々と親しげに呼ぶ彼の御曹司としての凄さしか伝わってこない。もう乃愛はたじだじするまま、先輩が繰り出す言葉を受け止めるだけ。  しかも、あの気高そうな戸塚中佐が、大号泣してオロオロしている姿なんて想像できないと言いたいが……。でも乃愛がダイビングする前は取り乱していたなあと思い出したりした。 「その戸塚中佐が、剣崎少尉のダイビングを大絶賛していてさ。良かったら今度、戸塚中佐の家に来てみない?」 「え、え、はい?」  軽々と唐突に『美しすぎるパイロットオジサマのご自宅に行こうよ』と言われて、乃愛は面食らっていた。先輩と面と向かって話すのも初めてで戸惑っているのに、ぽんぽんと物事が目の前で進んでいくので乃愛は目を白黒させるだけ。 「あ、ごめん。俺ったら……。独り善がりに……」  我に返った先輩が、申し訳なさそうに栗毛をかいてうつむいた。
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