6.パイセン

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「ああ……。俺ったら。ほんっとにごめん。休暇のたびに来ているってことは、ひとりの時間を楽しみにきているってことだよな。もうまた藍子さんに怒られちゃうかな。俺、悪気がなさそうにしてけっこう大胆なことをして人を困惑に陥れるって言われるんだ」  藍子さん? またもや慣れ親しんでいる人の名前が。しかも女性……。 「あ、藍子さんは戸塚中佐の奥様ね。ジェイブルーのパイロットで、俺の二番目の同乗者相棒だった先輩。戸塚藍子少佐のこと」 「アイアイさんのことですか」 「そう! アイアイさん! やっぱ女性の間では知れてるんだね!」 「お母様の御園中将と、お母様つき護衛官で秘書室長の城戸中佐と、女性パイロットとしてのアイアイこと戸塚少佐は、女性ならみな尊敬している女性隊員ですから。女性が軍隊で安心して働けるように貢献してくださった私たち女性の先駆者です」 「まあ、うちの母は……その、だいぶ破天荒なだけなんだけどね……あはは……」  母親のことになると気恥ずかしく感じるのかなと、妙な笑みを浮かべる先輩を乃愛は見上げ、その心内を窺う。  そこでまた先輩が何度目か。はっと我に返る。 「ええと。お邪魔だったね。じゃあ、パイセンはひとまず去ります。また会える機会があれば――」  駐車場でいつまでも話が尽きない状態に陥ってしまう先輩と乃愛。正直、先輩がこんな気兼ねない様子なら、もうちょっと話してみたいと乃愛にも興味が湧く。 「構いませんよ。ご一緒でも。御園先輩がよければ――」  乃愛の返答に、また先輩が『まじで!?』と子供っぽい顔をみせた。  なんだか先輩の思わぬ姿を知って、乃愛はついに笑っていた。
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