7.おなじ気もち

3/5
前へ
/465ページ
次へ
「お父さんのこと……。昨日、スナイダーさんから聞いたよ」 「そうですか。……いまは、母も私も好きにさせています」  こちらから多く語らなくても良くて、乃愛は少しホッとしている。  気が利く先輩がこちらの事情を知っていることもさりげなく教えてくれ、それ以上聞いてこなくて――。気兼ねしなくていいことは、乃愛には助かることだった。 「勝手に知っていて申し訳ない。戸塚中佐とも親しくしているから、昨日、救助を成功させた君のこと、たくさん知ることができてしまったんだ。特に戸塚中佐が『飛び込んでくれた女性隊員は誰なのか』と、ウィラード艦長に必死に問う隣に俺もいたもんだから……」 「それはわかっています。小隊長の宇品大尉からも『そのうちにサラマンダー飛行隊の戸塚中佐と、部隊長の柳田大佐から呼ばれると思うから、そのつもりで』とのことでした。ですので、私の経歴が伝わったことも承知しています」 「でも……。お父さんのことを聞いて、俺も子供のころを思い出しちゃったな。任務から帰還した親が思わぬ状態で帰ってきたという経験、俺もあったんだよね」  ご自分の事情すらもさらっと口にした御園先輩に、乃愛のほうが硬直する。  先輩が言うところの『親』は、あの女性将官で名を馳せている御園葉月中将か、東南司令部の情報管理を統べている彼の父親、御園隼人准将のことを指している。となると、聞いてよい話なのかどうかという気構えが生じるのも軍人の性だ。  思わぬ状態で帰還した親。乃愛の父親もそうだったし、幼馴染みの陽葵は変わり果てた父親が遺体で帰ってきたのだ。そんな『思わぬ状態』とは、御園家であったとしてどんなこと?  今日が初対面に近い乃愛に、唐突なプレッシャーがかかった。  それでも御園先輩が続ける。
/465ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1831人が本棚に入れています
本棚に追加