8.オタク貴公子

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「でも二人住まいだから狭いんだ。仮住まいだし。そのうちに、今まで住んでいた旧島の一軒家に戻るつもりらしいよ。その旧島の実家なんだけど、留守番がわりで、俺が一人で暮らしているんだ。両親もたまに帰ってくるよ」 「仮住まいなのに、高騰している地区のマンションに住んでいるってだけで、やっぱり凄いですよ。私、あのあたりのブランドショップによく行くんですけれど、ほんと歩いている人たち、観光客か上流階級の雰囲気漂う人たち多いですもん」  そこでひょいっとハイブランドの靴を選んで、何箱も買っていくセレブを見たこともある。  それだけいま『セレブが住みたい街トップ1』になっている新興リゾート街なのだ。  そこで御園先輩も乃愛の言動で不思議に感じることがあるのか尋ね返してきた。 「あのあたりのショップによく行くんだ。もしかして、今日のお洒落な靴もリゾート街で?」 「は、はい。そうです! いっちょまえにブランドの靴が大好きで、ボーナスが出たらとっておきの一足を買うために、職務遂行頑張ってます!」 「そうなんだ! いいね、そういうの。靴、すっごく似合っていたよ。こんなに靴をかっこよく履いている人は初めて見たなと思ったんだよ」  えー!? なにこのナチュラルさ。するっと臆面もなく女性を褒めるの上手すぎ! 言われて嬉しいはずなのに、乃愛は気恥ずかしさでいっぱいで照れくさくなってしようがない。頬も熱くなって身体も熱くなる。  やっぱり目ざとく、乃愛自慢の靴も見逃していなかった。でもすぐにおべっかのようにあそこで褒めずに、話題になって初めてそこに触れるナチュラルさ!  もう『ナチュラル貴公子』と呼びたい。
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