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そうしたらもう、またもや金髪のオジサマは喜び勇んで飛び上がり、隣の御園先輩に抱きついて騒ぎ出す。
「ほ~ら、聞いたかあ、海人。俺って官舎のアイドルだったらしいぞ!」
「アイドルって……。いや、否定しないけど……」
嬉しそうにしているフランク大佐を見た乃愛は、調子に乗っていちばん印象深く残っている『シド兄様の思い出』も話すことにする。
「私、お話しするのは初めましてなのですけれど、フランク大佐のこと、初めてお見かけしたのは、住んでいた官舎でなんです」
「え、俺を、官舎で……見た? 俺、官舎には行く用は、そんなになかったけど」
「えっとですね。その時は同じ棟に、いま旧島で連隊司令をされている城戸少将も一緒に住まわれていて、我が家は隣の階段の並びに住んでいたんです」
「……城戸……、臣さんが官舎に住んでいた時?」
「そうです。その城戸司令と肩を組んで大声で唄って帰ってこられたこと、ありますよね」
乃愛が明るくその話題を振ったら、いままで意気揚々としていたオジサマが、何故かびくっと背筋を伸ばして顔色を変えたのだ。
御園先輩も気がついた。『え、シド。どうしたの』と呟いたほどだ。
「え、乃愛ちゃんは、その時……あの官舎に? 透が家族であそこに住んでいたってことだよな」
「そうです。私、越してきたばかりのジュニアハイスクール生だったんですけど、寝ようかなって時間に、城戸司令とフランク大佐が大声で『同期の桜』を唄いながらタクシーから降りてきたところを見ちゃっていたんです」
そこでフランク大佐が黙り込んでしまったのだ。
え、いけないこと話した? 乃愛は我に返って焦る。
「も、申し訳ありません。酔っ払っていたお話は失礼でしたね」
「いや、そうじゃないんだ。うん。あれ、記憶をなくして酔っ払った少ない例だったんで。その、えっと、まさか、あの日の話がここで出てくると思わなくて」
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