1.幼馴染みバディ

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 あんなに凜々しくて頼もしいダメコン隊員だったのに――。  事故後、バディを失ってからの父は腑抜けた日々を送っている。 「陽葵(ひまり)もさ。いつまでも剣崎パパが落ち込んでいたら、天国のパパが心配していると定期的にあいつまで落ち込んじゃうんだよな」  彼女が落ち込んでいること、そして『パパたち』の話題が出てきて乃愛は黙り込む。  返答がない相棒の様子に大河も気がつき我に返っている。 「えっと、ごめんな。心配しているんだよ。陽葵が買い物にでかけたら、釣り竿を背負って海岸線を自転車で走る剣崎パパさんを見かけたらしくて。ひげぼうぼうになって部屋に閉じこもっているより全然いいんだけどさ。ほんとうなら、俺たちDC部隊の大隊長になっていてもおかしくない人なんだぜ。おまえの父ちゃん。そして生きていたら、そのそばには絶対に陽葵のパパさんもいてさ」  さらに乃愛は口をつぐんだ。密かに奥の歯も食いしばっている。  感情的になって上官で先輩でバディで、幼馴染みでもある彼を傷つけるような言葉を吐かないようにだ。さらには、彼の妻であって、同様に乃愛と大河の『もうひとりの幼馴染み』である陽葵の思いを無下にしないため。  でもその腑抜けた父親をそばで感じている娘としては、その心配が有り難ければ有り難いほどに情けなくなってくるのだ。  だが……。もし自分が父とおなじ境遇に陥ったら? 航行中に事故に遭遇し艦が沈まないようにダメージコントロールを実施する。その時にもし、この隣にいる相棒・大河を死なせてしまったら? 幼馴染みの陽葵は父親だけでなく夫までも殉職で失うことにもなる。乃愛だけが生き残って、帰還するなんて……。父の境遇を自分のものとして想像しただけで、乃愛も死にたくなる。きっと『心が死ぬ』。  いまの父がそんな状態なのだ。
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