10.お守りID

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 シド=フランク大佐乱入の嵐が去り、ふたたび御園先輩とふたりきりになる。  その頃には、トルマリンのような色合いだった夕空は、カイヤナイトのような青深い色に変わっていた。  カフェの各テーブルに、ちいさなキャンドルが置かれていく。その小さな炎が窓辺に映るのだが、それよりも御園少佐の栗毛のほうが明るく見えた。 「騒がしくして、ごめんな。俺のまわり、いっつもあんなふうにざわざわしちゃうんだ。どこに行っても誰かに会ったり、見つかったりしちゃうんだ」 「生まれた時から、たくさんの方に囲まれていたからなんでしょうね」  ため息を吐きながら残りのサンドを頬張る先輩の眼差しが、憂うように見えたのは気のせいか。ふとした影を乃愛は感じたのだ。 『サニー』は彼の操縦者としてのタックネームだと知られている。お日様のようにきらきらしている男の子。お日様のように生きてきた子。ということから付けられたのだろう? まさにそんなイメージしか乃愛も持っていない。  遠くに見かけても、いつだって栗毛が綺麗に輝いて、琥珀の瞳もガラス玉のように透き通っていて、母親そっくりな品の良い貴公子顔。資産家一家の長男で、いつも沢山の人に囲まれ、誰もが彼を知っている。キャンプのマーケットに行けば、アメリカキャンプ在住の奥様たちが必ず彼に声をかけたり挨拶をしたり手を振ったり……。誰もが知っている人なのだ。  でも。それってもしかして、疲れることなのかな。  乃愛とはたまたま出会ったから、たまたま一緒に食事をしているけれど、女の子とふたり向き合っている時だって邪魔が入る。誰もが放っておかないということは、いつも気が抜けないということ? 初めてそう感じたのだ。
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