10.お守りID

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「艦内浸水した際のバラスト管理とか、浸水経路のコントロールも、何パターンも訓練実施ができて、実際に水も浸入させて体感訓練ができるとのことです。防火訓練、ある程度の浸水応急処置は全クルーにも課せられる大事な作業なので、任務乗艦前の隊員はこれからそこで事前訓練を施してからという流れにするそうです。その時の訓練指揮もDC隊が受けもつことになりそうです」 「それってパイロットもだよね」 「そうですね。乗員全員、防火訓練は大事ですから。火がどのような物質から発火したかによって、消火する薬剤も変わってきますしね」 「そっか。でも俺、艦載機の飛行隊じゃない地上待機部隊だから、そこで訓練はしないかもなあ~。でもその訓練施設、見てみたいなあ~。頼んだら、俺でも見学させてくれるかな? うーん、水を被りながら作業するって未知の世界」 「私は空へ飛んでいくほうが未知の世界ですし、生豆からフライパンで焙煎しちゃうコーヒーも未知の世界です」  お互いの仕事が未知であることはお互い様かと、ふたりで同時に頷いていて、また『同じこと感じている』と目が合う。確かめあってもいないのにそれがわかって、笑い合っていた。 「せっかくだから連絡先を教えて。父がキャンプをする日においでよ。その時に、セルフ焙煎の珈琲を味わってみて。父もきっと、ハイダイビング競技経験の女の子と聞いたら、興味津々で出迎えてくれるよ」 「そ、そんな畏れ多いですって……」 「普通のオジサンだって、いまはとくに。エプロンをしている主夫なオジサン」  そう言われても、元准将という高官だった男性だ。先輩にとっては『普通のお父さん』でも、乃愛にとっては『雲の上の(元)高官様』だ。
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