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その後も話題は尽きず、懐かしいスクール時代のことでも話に花が咲いた。
食事を終えて、駐車場で互いに車へと別れようとする。
「楽しかったよ。これからあの艦のテスト航海に出るんだよな。気をつけて」
「はい。ありがとうございます。先輩も、いまからフェリーに乗って旧島まで帰られるのですよね。お気をつけて」
御園先輩も『ありがとう』と、あのきらきらの笑顔で手を振ってくれる。
RX-7に乗り込んだ乃愛より先に、赤いトヨタ車に乗った先輩がクラクションを鳴らして駐車場を出ていった。
乃愛はエンジンをかける前にしばらくシートに身を沈めて、胸を押さえていた。
あの先輩と、すごく自然に食事をしたこと、会話をしたこと。いまになってドキドキして心が慌てている。遠い貴公子のような人だったのだから。
でも。これっきりだろうな。乃愛から相談がなければ、きっと先輩からの連絡なんてないだろう。
ちょっと興味があった『ダイビングガールちゃん』とのひとときは終わったのだ。先輩にとっては『たくさん出会う隊員のひとり』だったに違いない。
もうダイビングガールちゃんには興味を抱くことはないだろう。
でも乃愛はスマートフォンを見つめて、心強い気持ちになっていた。
「そうだね……。なにか困ったことがあったら力になってくれるかも。お守りとしておこう」
女身で軍隊に入隊し、男性に混じって精進していく道筋には、いろいろな苦い経験があった。そんなときに幼馴染みがいつもそばにいるわけでもなく、たとえ頼もしい大河でも階級的に力及ばないことがあった。それが軍隊――。
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