11.岩国メモリー

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「存じております。素晴らしいファイターパイロットとして、私も何度もかっこいい展示飛行を見てきましたから」 「そうだったんだね。でもそう見てくれていたのに、先日は情けないところを見せてしまったかな。冷静沈着にしている君が救助に向かおうと心積もりを整えている目の前で、飛行隊長たる上官が取り乱すような姿を見せて申し訳なかった。そして、ありがとう。岩国からやっと小笠原に赴任し、自分の僚機、相棒を引き受けてくれたばかりの三原を救助してくれて、ほんとうに感謝しております」  あの美しすぎる中佐さんに深々と頭を下げられてしまう。  名が知れている中佐殿がいきなり低姿勢で迎えてくれたので、隣に控えている大河も目を瞠っているが、乃愛も仰天して困惑する。 「そんな、まさか甲板から落水するだなんて。私も一瞬の出来事で驚いていましたし、飛行隊長ならば新任の隊員を案じて懸命になるお姿は、当然のことだったかと思います」 「それでも、救命艇が到着しただけでは、水中に沈んだ三原を発見できず、そのまま溺死させていたかもしれない。あの時、あの一瞬。そこに、飛び込む技術を持ったダメコンの君がいたからできた救助だった。それはウィラード准将も言っている。あそこにたまたま、剣崎少尉がいたことが幸運だったと。彼女がハイダイビングが出来る隊員と知っていたから、救助は成功すると確信して、異例で行かせたと言っていたからね」  ウィラード艦長が、あの時、乃愛の顔と氏名が一致していたのは、乃愛の経歴を既に知っていたから? クルーの特徴を頭に叩き込んでるのだろうか。それならやはり素晴らしいと思えた。厳格だが、名を馳せているファイターパイロットたちから慕われ、艦長に就任した経歴もうなずける。
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