11.岩国メモリー

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「剣崎。三原少佐は打撲で済んだようだよ。いまは経過観察で念のための入院中とのことだが、無事が確認できれば操縦に復帰できるとのことだ。メンタルもいまのところ大丈夫とのことだよ」 「そうでしたか。良かったです。水中でも諦めずに海面を目指すための泳ぎが出来ていましたので、怪我はなかっただろうと判断をしていました。ですから、改めてのご報告に安心いたしました」  水中でも諦めずに――。  そのひと言に、戸塚中佐と柳田大佐が顔を見合わせ、また戸塚中佐は目頭を押さえてうつむいてしまったのだ。 「そうか……。諦めずに……」  そんな戸塚中佐の背中を、柳田大佐が兄貴のようにそっと撫でたのが印象的だった。 「ま、それぐらいの気概がないとファイターパイロットも務まらないだろうさ。もちろん、パイロットだけでなく、どこの部署にいる隊員もそうでなくては部隊も保てず、防衛もままならないということだ。三原は大丈夫だよ」  メンタルに支障はないという診断は出ていたようだが、空を飛ぶ度胸があっても、水に沈む恐怖は未知だったことだろう。そこを飛行隊長として案じているのだと伝わってくる。  乃愛もそうだが大河も、じっと黙って視線を定める場所に困るほどに、戸塚中佐は感情を露わにして心を傷めている。それだけ、飛行甲板から故意に人が落とされたことは、誰にとっても衝撃の出来事で、誇り高きパイロットと呼ばれている彼にも痛手だったのだろう。  そこから気を取り直した様子の戸塚中佐が笑顔を取り戻す。 「ウィラード艦長から聞いたよ。お父さんからハイダイビングを教わって、競技に参加したことがあるそうだね」 「入隊前、ハイスクール時代です。女子は20メートルの高さになっています」
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