11.岩国メモリー

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「君が名乗らなかった理由は、きっとそういうことだろうと三原と話していたんだ。三原には、君の名と経歴を伝えると、『自分はラッキーだった』とあの日君がそこにいた幸運を噛みしめていたよ。いきなり海へと突き落とされた恐怖を植え付けられたことについては、今後も経過を見ていかねばならないが、女性の君が勇猛果敢に海中に現れた姿を三原は繰り返し語っていて、それが彼のメンタルを慰めているようだった。退院後はまた、彼自身も君に会いたいと言っているので、よろしく頼みます」 「はい……。ご無事でなによりでした。私も岩国で育った時期があったので、岩国で職務に励んでこられた方がこれからも活躍されることを願っているとお伝えください」 「そうか。君も、岩国から――」  君も。海軍である以上、岩国を経由して小笠原にやってくる日本人隊員は多い。だからかなと思ったのだが。何故か隣にいる柳田大佐がニヤニヤとした意味深な笑みを見せ始めたのだ。  大佐殿、なんでそんなに意地悪そうに微笑んでいるのかと、乃愛と大河、長門中佐も訝しげに眺めていると、そのうちに柳田大佐が抑えきれなくなったのか笑い始めた。 「エミル、『君も』……って。剣崎少尉と『藍子も』ってことだろ。エミルにとっての岩国とは『俺と妻が恋に落ちた場所』だよな!」  唐突に恋愛の話を持ち出された戸塚中佐が、ギョッとした顔になる。 「落ちたのはそこではないですからっ」 「だってさあ。宮島デートしたんだろう? そこで恋人同士になったんだろう? ウィラード准将が部隊長だった時に宮島に行くための休暇許可してくれたんだろう? でも宮島旅行は建前で『藍子に会いに行く』休暇だったんだろう。でさあ、こそこそ行くもんだから、変なことになって査問されてやんの」 「そんな昔のことをここでいわなくてもいいでしょう。やめてくださいよ!」
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