12.愛妻家のお話

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 部隊長の言葉にやっと上官雑談から解放されるよと、乃愛と大河は揃って『イエッサー』と敬礼をする。  最後に、雑談を聞いていただけだが、そこで知ったことだからと、乃愛と大河は戸塚中佐にお祝いの言葉も伝えておく。 「第二子のお子様、奥様のご懐妊、おめでとうございます」 「ご無事に出産できますように。おめでとうございます」  見送りためにと、一度パイプ椅子に座っていたサラマンダーのおふたりも再度立ち上がってくれる。 「剣崎少尉、杉谷中尉。ありがとう。妻にも伝えておきます。君たちのことも同様に、無事の職務遂行を祈っているよ」 「再度、サラマンダー飛行隊部隊長の自分からも礼を。このたびの迅速な対処と救助にて、こちらパイロットを救ってくれたことに感謝をする」  戸塚中佐と柳田大佐が敬礼をしてくれたので、乃愛と大河もそろって背筋を伸ばして敬礼を返した。  長門部隊長から『下がってよい』と退室を促され、ふたりは外通路へと出る。  艦内通路に出た乃愛と大河は、本日の持ち場に戻ろうと歩き出す。 「へえ、美しすぎるオジサマは、岩国で奥さんとデートしていたんか~」 「そういえば、アイアイさんは岩国のジェイブルーにいたんだっけ」 「宮島、懐かしいな」 「夏休みに三人だけで行きたいと騒いで、親たちに怒られたね」 「そうそう! そんで、母親たちが付き添いでついてくることになって、おかんたちのほうが喋りまくっていてうるせえの」 「あはは、そうだった、そうだった!」 「あなご飯、食べて~」 「私は、揚げもみじ、食べたい~」  岩国で過ごした小学生時代を思い出して、幼馴染みと笑い合っていた。  気兼ねない会話をしていた幼馴染み同士の背後、そこから男の声が加わってきた。 「俺はあなご飯に一票だな」  その声に振りかえると、濃紺のフライトスーツ姿の戸塚中佐だった。
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