12.愛妻家のお話

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先ほど別れたばかりだったのに、またそこにいるので大河とともに飛び上がるほど驚かされる。呆気にとられて静止していると、戸塚中佐がフライトスーツの胸ポケットから、名刺を出した。 「なにか困ったことがあれば、いつでも力になりたい」  名刺の裏には電話番号に、メッセージアプリのIDまで記されていた。  業務用だとは思うが、それをわざわざ準備して手渡しにきてくれたことに、乃愛と大河は戸惑い顔を見合わせた。 「岩国の日本人官舎ですごした幼馴染み同士なんだって? バディの君にも渡しておくよ」  大河にもその名刺を戸塚中佐は差し出している。 「妻が岩国の日本人官舎に住んでいたことがあってね。訪ねたこともほんとうのことで、春の瀬戸内に宮島の景色とか、よい思い出なんだ。うちの妻、料理が上手いんだ。実家が北海道の美瑛なんだけれど、そこで彼女の父親がオーベルジュを経営していてシェフをしているんだ。妻は父親譲りのメシを作るので、機会があれば誘うよ。では――」  渡すだけ渡して、颯爽とブロンドのオジサマが去って行く。  大河も言われるまま名刺を受け取って茫然としていた。 「え、俺たち、すげえところとお近づきになってんじゃね?」 「そ、そっかな」  大河にはまだ『御園先輩と食事をした』ということを言えずにいた乃愛なのだが、『まさか戸塚中佐からもお誘いをもらっちゃうなんて』と内心は大騒ぎになっている。  これはまたもや『お守りゲット』なのでは!? と――。  だが大河がぽつりと言ったのだ。 「おまえ、飛び込んだ日から、引き寄せるもの変わったんじゃねえの? あそこに御園がいたから?」
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