14.素敵、大好き

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 ほんとうにタルタルソースの小袋がふたつある。  子供の時、この袋がひとつじゃ不満で、父が『仕方がないな』といつも譲ってくれたことを思い出す。じゃあ、パパはどうするのと聞いたら『俺はナゲットソースで食うよ』と笑いながら、必ず乃愛に二袋になるようにしてくれた思い出……。夏の海水浴に行くと、ランチはこのファーストフード店だった。  いまは思い出のお店に母が勤めている。  嬉しいサービスに頬を緩めながら、フライドフィッシュにタルタルソースをいっぱい付けて頬張った。  レジカウンターの向こうでちらりと見えた母と店長が、乃愛を見て微笑んでいるのが見えてしまった。  食事を終え、また少しだけ顔を出してくれた厨房の母へと、乃愛は手を振って店を出た。  店の軒先から駐車場に向かおうとすると、ぽつぽつと小雨が降り始める。 「やっぱり。雨か――」  生ぬるい空気を肌に感じながら、乃愛は愛車へと急いだ。  店先の百日紅がざわざわと忙しく揺れてる。  白いセブンが泥水で汚れちゃうな。でも、帰ってきたらピカピカに戻っているのだろうな。乃愛が留守の間に、父が黙って勝手に、愛車を綺麗に磨いて整えてしまうのだろう。  生きる気力は持っている。でも軍人に戻る気はなくなった父。  これからどう生きていくか探ってるのだろうか?  母はそんな父を信じて、静かにそっと待っているのだろうか?  RX7に乗り込み、海岸線を走り始めたらあっというまに本降りになってきた。  それどころか、土砂降りになってきた。視界を遮るのではとおもうほどの水飛沫がボンネットの上で跳ねている。  大粒の雨が車体を激しく叩き始める。信号待ちで停車している間、車内にいてもザアッと響く雨音。
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