15.気高い男の言葉

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「ちょうどさしかかってよかったです。じゃあ、いまから、剣崎セブンタクシーでございます……ってことで」 「す、すごいな君。まさかRX7に乗っているだなんて。RX7が通ったな……なんて暢気に眺めていたら急に停車して、運転席から出てきたのがまさかの剣崎少尉! また冷静さを失っていたよ」  戸塚中佐が笑い出す。シート後ろのネットポケットにもタオルを備えているので、乃愛はそれを取り出して中佐に差し出す。 「初めて水も(したた)るいい男――というものに出会った気分です」  乃愛の言葉に戸塚中佐が笑いながら、白いふわふわタオルで金髪を拭いている。 「いやいや、それは君のお父さんのことじゃないのかな。水に飛ぶいい男のはずだ」  確かに。父はかっこよかったよ。なにもかも。  そんな娘の気持ちを見透かされているように乃愛は感じたのだ。 ☔---  マリーナ地区までは車で二十分ほど。軍港と司令本部を通過、乃愛が住まう軍人住宅地も通過して、さらにその向こうにある。  バス停から車を発進させると、タオルで制服の胸元を拭く戸塚中佐が話し始める。 「こちら新島にまだ入院している三原を見舞ったのと、退院の目処についての話し合い。それから、先日の事件についての査問やら対策会議やらで、二泊の出張になったんだ」 「そうでしたか。あの事件のせいでまだざわざわしているままですよね」
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