15.気高い男の言葉

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「うん。三原も言っていた。上層部で話し合われたことはここでは伝えられなくて申し訳ないが、一般隊員に周知されているとおり、そして剣崎少尉が目撃したとおりに『故意』と判断されている。そのための今後の対策会議だったよ。安心してほしい。上層部は目を光らせているし、警務隊が動き始めている。警備も強化された。油断はできないが、安心して着任をしてほしいと思う」 「そうですか。良かったです。安心しました」  会議から帰ってきたばかりの上官が自らそう伝えてくれたので、乃愛もほっとする。  会話が途切れたそこで、土砂降りの雨音が聞こえる車内を、戸塚中佐はくるりと頭を回して眺めている。 「憧れてこの車を選んだのかな?」 「はい。でも選んだのは父が若い時で、私が大人になったら譲ってくれる約束だったんです。入隊の記念に父から譲り受けた車です」 「お父さんから譲ってもらった? お父さんがこのRX7-FDオーナーだったのか。なるほど、ちょうどその世代の人たちがこぞって乗っていた時代のものだよな」 「そうなんです。いまも父は手入れをこっそりしてくれているんです。私が航海に出ている間にですけれどね。洗車しないまま出て行くと、綺麗になってガレージに入ってるんです」 「いいお父さんだね」  戸塚中佐のひとことに、乃愛は押し黙る。 『いいお父さん』。そう言われると嬉しいし、哀しくなる。言葉で形容しがたい想いが綯い交ぜになって、胸の奥から込み上げてくるからだ。  やっと出たひと言が。 「父のこと……、ご存じなんですか」  雨水が流れ落ちるウィンドウへと視線を逸らした戸塚中佐が『知ってるよ』と小さく答えた。こちらも御園先輩と同様、あの日にウィラード艦長から聞かされたとのことだった。
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