16.男たちの助言

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16.男たちの助言

 戸塚中佐が慌てて紺色の制服スラックスのポケットからハンカチを取り出し、運転する乃愛の涙を拭いてくれる。 「ああ、申し訳ない……。他人なのに踏み込みすぎたかもしれない。知った風なことを言って悪かった」 「いえ……。言葉を発しない父にもう何年もモヤモヤしていたんです。でも、気高いと言われる戸塚中佐からの言葉が嬉しくて……。戸塚中佐がそう言われるなら、きっと父もそうなのだろうと思えて……そうだったらいいなと……」  いい香りがするハンカチだった。シャボン? 柑橘? そんなユニセックスないい匂いがした。  奥さんが選んでいる柔軟剤なのかなと、それだけで心が落ち着いてくる。  中佐殿のハンカチを汚していることが申し訳なくて、乃愛は必死に感情をコントロールして涙を抑え込もうとした。 「でもお父さんの愛情が、この車だけでも伝わってくるよ。ハイダイビングといい、この車を譲ってくれたことといい、お父さんの『揺るがない想い』を感じている。君のこと、元気いっぱいの息子のように感じてアクティブに育てて、パパの背中を見て育って後を付いてきてくれることは、父親としてとても幸せなことだと思う。でも娘として愛らしく感じていることも常に胸に携えている。そうでなければ、大事な車を譲ってくれないだろう。娘が航海で留守の間に、愛車の手入れもしてくれない。俺はそう思う」  また涙が溢れ出してきて、今度の乃愛は戸塚中佐に抗議をする。 「もう中佐のせいですよっ。前が見えない……!」 「ごめん……。いや、剣崎少尉も一人娘と聞いたもんだから。俺も一人息子で、父親の影響をめいっぱい受けてバイク乗り、父親はバイク屋だったから」
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