16.男たちの助言

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 実家の玄関に立つと、キッチンの窓の向こうからかすかな灯りが見えた。夜勤をしている妻を待つ夫が、ひとり留守番する灯りだけしかつけていないことがわかる。おそらく奥にあるリビングの灯りだ。  合鍵にて実家の玄関を開けた。暗い玄関でそのままサンダルを脱いであがった。  リビングからテレビの音が聞こえるだけ。それ以外はとても静か。  庭側の窓が開けられているのか、遠くからさざ波の音が聞こえる。 「ただいま――」  リビングのドアを開けたが、テレビが勝手に喋っているだけでソファーには誰もいなかった。  でも。リビングの窓が開いていて、そこから続くウッドデッキで新聞を広げている父の背中が見えた。  雨上がりのむしっとした空気を入れ換えるかのようにそこにいて、窓の向こうには漁り火、そして乃愛がここに来るまでに付いてきていた朧月が見える。ぼんやりとした月明かりに照らされている父の背中――。 「お父さん。ただいま」  父が少しだけ顔を上げたようだが、背を向けたまま振り返ってくれなかった。いつものごとく無言――。 「新型空母のクルーに任命されてもう乗艦しているんだ。もうすぐテスト航海に出る。さっき、お母さんに会ってきたよ。お父さん、お母さんのことよろしくね。あと……、セブンも……」  出航前のいつもの挨拶だった。父から『そうか』という短いひと言だけでも出てくれば良い方だった。  父は背を向けたまま無言だった。  もうずっと父の笑顔を見ていない。
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