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いままで『気をつけて行って来い』のひと言すら口にしてくれなかったのに……!
「フランク大佐もお父さんのこと知ってたよ。相馬パパのことも――」
もうなんの返答もくれなかった。
それどころか父は新聞を畳んで握りしめると、さっとウッドデッキから立ち上がった。乃愛からの視線を避けるように顔を背け、そのままリビングを出て行く。奥にあるベッドルームへと消えてしまった。
乃愛は唖然としたまま、父を見送ってしまった。
久しぶりに話しかけてくれた言葉が……。乃愛の任務に関するアドバイス? そうとも言い難い意味不明の助言だったからだ。
しかも出航前にそのことを告げたのは何故?
今回に限ってどうして?
乃愛の胸になにか不穏なものが渦巻くのがわかった。
だがこれ以上、父が乃愛に向き合ってくれることはないこともわかる。
だから乃愛はそのまま実家を出て、愛車へと向かった。
雨上がりの朧月が優しく照らす海岸線をまた乃愛は走り出す。
波も落ち着いてきて、月明かりで夜の海が柔らかな青さで浮かび上がる。
RX7を走らせながらハンドルを握る乃愛は、父の言葉を脳裏に反芻させている。
父が言いたいことはわかる。父が言うところの『部隊長』はもちろん、DC隊部隊長の『長門中佐』のことだ。長門中佐は父と相馬パパの後輩だった。当時、一艦のDC部隊長だった父が退官、相馬少佐が殉職したので、その後輩であった長門中佐が早めに引き継いだことになったのだとか。父と相馬パパの想いをよく知っている隊長でもあった。
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