17.不倫疑惑

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 隣でカツ丼をかきこんでいた大河が箸の動きを止め、驚き顔で乃愛を見下ろしてきた。頬張っていたものを彼がゴクリと飲み込むとき、ゆっくりと動く喉元が、信じられないものをなんとか飲み込もうとしている彼の気持ちと重なったように見えた。  幼馴染みの乃愛がそんな不適切なことに足を踏み込んでいたのかと怒り出すように大河が突っ込んでくる。 「身に覚えがあるって、おまえ、どういうことだっ」 「だから。男女関係は身に覚えがない。でも数日前に、こっち新島に出張にきていた戸塚中佐を、雨の中で拾ったの。司令本部前のバス停で濡れていたから。それからセブンで宿泊先のビジネスホテルに送りました。それなら身に覚えがありますよ、中尉。ここで報告しておきますね」 「で、そのときのことがねじ曲がって、あんなふうに? くだらねえ」 「くだらないね。放っておこう。戸塚中佐の耳に入っても全否定されるだろうし、調べればなにもかも誤解だとわかるはず。いかがわしい場所に出入りしていたわけでもないと判明するだろうからね」  いちおう『部下』になる乃愛からの報告に、大河も納得した。  しかし大河はカツ丼をすべて食べ終えると、箸をぱちりとトレイの上に置いて呟いた。 「不自然だな。……不穏なかんじがする。乃愛へのダメージ狙い? いや、もしかして戸塚中佐か? 部下を甲板から突き落とされ、その次は愛妻家と皆が認める男性なのに、おまえと接触したことを機に『不倫仕立て』にされるだなんて……。しかもたった数日で?」  戸塚中佐狙い――?  言われればそうだ。乃愛に厄がつきまとうことは噂されているが、今回は乃愛はたまたまそこにいただけであっても、戸塚中佐とは二件とも関わっている。
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